建築パースの外注完全マニュアル:問い合わせから完成までの流れ6ステップ

初めて建築パースを外注する際、どのように進行するのか不安を感じることだろう。依頼時に必要な資料はなにか?修正や変更には対応してくれるのか?など様々な疑問が生じるはずだ。

この記事では建築パース制作を外注する際、問い合わせから納品までの流れについて、「依頼者の視点」でポイントを解説する。どんなタイミングで、なにをしなければならないのか、注意すべきポイントや起こりうる問題について触れていく。

建築パースを外注する一連の流れを事前に把握し、前もって準備を進めることで、失敗を回避することができ、期待通りの成果物を得られることだろう。

目次

1. 制作会社へ問い合わせ(見積依頼)をする

建築パースを外注する際、最初のステップが制作会社への問い合わせになる。この過程には、要件整理から適切な制作会社選び、そして見積依頼という大切なフェーズが含まれる。それぞれの要点を見ていこう。

1-1. 依頼の要件を整理する

建築パース制作の外注を検討する際、まず行うべきは依頼内容の要件整理である。
プロジェクトの内容、必要なパースの種類、納期、そして予算範囲。これらの情報を明確にしておくことが重要である。特にプロジェクトの内容については、その時点で把握できる図面をPDFにして用意しておくのがよい。また、どの地点から見たパースが欲しいのか、どの部屋の絵が欲しいのか、パースが必要な箇所についてもまとめておこう。

1-2. 2社以上ピックアップする

一つの会社に絞るのではなく、複数の制作会社を検討することが望ましい。

得意分野、成果物の質、納期への対応力などの視点で比較するとよい。単純に制作例のクオリティだけでなく、デザインセンスなどが自身のプロジェクトと合うのかも重要なポイントである。

また、費用の透明性や追加料金の有無など、コストに関する情報も重要な比較ポイントである。
まずは2〜3社ほど候補を選び、次の見積依頼へと進むのがよい。

1-3. 見積を依頼する

比較検討した制作会社に対し、見積もり依頼を行う。この際には、前段階で整理したプロジェクトの詳細要件を明確に伝えることが不可欠である。見積に必要な情報としては

・建物の種類(住宅、マンション、商業施設など)PDFにて図面添付が望ましい
・使用用途(プレゼンなのか広告なのかなど)
・パース種類(外観なのか内観なのか)とアングル(アイレベルなのか鳥瞰なのか)
・カット数
・納期

少なくともこれらの情報がわかれば見積制作は可能だ。各社ともに、メールフォームを問い合わせで利用できるはずなので、そちらを使って、見積依頼を行おう。

■ 電話で問い合わせする時の注意点
直接電話で問い合わせをする際は、「回答がおおまかな目安」であるということに注意したい。ある程度の計画内容が把握できる図面等資料がないと、見積や納期を回答するのが難しい。メールフォームにて資料を送信し、内容を確認してもらった上での回答をお勧めする。

 2. 見積を確認し制作会社を選定・発注する

予算に合わせた選定も大事ではあるが、費用だけでなく提供されるサービスの質や制作期間も考慮する必要がある。また、発注前には実際に制作にあたって必要となる資料の準備も重要だ。
このプロセスでは、見積もりの詳細を精査し、予算内で最大の価値を提供できる会社を選ぶことが肝心である。

2-1. 見積内容を確認する

まずは提供された見積書の項目がプロジェクトの要件を網羅しているか確認が必要である。そして費用が予算内に収まっているか、納期が希望をみたしているかをチェックしておこう。不明点や疑問点があれば、制作会社に問い合わせしておくことで、後に発生するトラブルを未然に防ぐことができる。

ここでのポイントは、後に発生する修正や変更の対応に追加の費用が発生するのかどうかというところ。当初の見積金額は予算内ではあったが、度重なる修正や変更が発生してしまい、想定していない費用が必要になったというのはよく聞く話である。追加の費用の発生に明確な基準を設けるのは難しいが、どのような考え方なのか聞いておくのはお勧めである。

2-2. バランスを考慮して制作会社を選定する

制作会社の選定においては、コストパフォーマンスだけでなく、信頼性や過去の実績、提供できるサービスの質を総合的に評価する必要がある。低価格であることは魅力的だが、品質がそれに見合っていなければ意味がない。一方で高価格であっても、その価格に見合った付加価値やサービスを提供しているかどうかも重要である。問い合わせからのやりとりの雰囲気も含め、総合的に判断しよう。

■比較例

建築パース依頼の目的:とにかく顧客が釘付けになるパースを作る

仕上がり(5点)コスト(2点)信頼度(2点)制作期間(1点)合計
A社40105/10
B社32218/10

2-3. 事前に準備が必要な資料を確認する

選定した制作会社に正式依頼する際に、進行に必要な資料や情報を改めて確認しよう。スムーズに進行するには、必要資料を出来る限りまとめて提供するのが望ましい。資料が不足していると、想定外の結果や納期の遅れ、不必要な変更等を招く可能性があるので、事前に十分な準備をすることが重要である。

一般的には

・計画建物や空間のCADデータ(DXF/DWGもしくはJWW形式が主流)
・希望アングル方向
・仕上げ材情報

このあたりがあれば制作は開始可能である。

3. 依頼物件の資料データを収集する

3DCGによる建築パース制作には、当該計画の設計図面データや仕上げ材などの情報(仕上表・仕様書)が必要となる。まずは図面に関して、用意がある場合と、ない場合について解説していく。

3-1. 図面データがある場合

建築CGの制作開始には、当該計画の一般図(平面・立面・配置図)が必要だ。それらを下図にして3D形状を制作するためである。よく混同するのだが、下絵として利用するので確認用で用いられるPDF形式の図面ではなく、「DXF」や「DWG」もしくはJWCAD形式でのデジタルデータの準備が必要だ。手元にない場合は設計担当者などに問い合わせよう。

また、ディテール等の細かい表現が必要なところは、詳細図やスケッチ等で指示を行うとよい。

一般的な外観・内観パース制作に必要な図面の種類をまとめておく。

外観・・・平面図、立面図、配置図、外構図…
内観・・・平面図、展開図、床伏図、配灯図、詳細図…

デジタル図面データと共に確認用のPDF図面も用意しておくと制作者側は計画を把握しやすく、制作もよりスムーズに進む。

3-2. 図面データがない場合

設計コンペや時間の限られている案件では、しっかりとした図面が用意できない場合もあるだろう。簡単なスケッチだけでも対応可能な制作会社が多いと思うので、問い合わせてみるとよい。

その際、最低限の内容とボリュームがわかるように平面・立面のような簡易な資料は必要である。
また、不確定な要素が多い分、制作費用は割高となることが多い。

3-3. 自作の3Dデータがある場合

自社で3D形状を作成したのでそれを利用すれば時間も費用的にも節約できるのでは?と思われるかもしれない。しかし残念ながら多くの場合、そのモデルは利用できない。

建築パース制作の過程では、データ変換時の不具合、ディテールの追加や細かい修正が必要となる為、結果的に初めから制作を行ったほうが早い場合がほとんどであるためだ。それでも、立体形状の把握といった点では2D図面より優れているので提供すれば進行は捗る。

3-4. その他の必要資料

その他、滞りなく制作の進行を行うには依頼時に以下の資料があると非常によい。事前に用意できない場合もよくあるので、後の指示で問題ないか制作会社に聞いておこう。

【仕上表・仕様書・マテリアルリスト】
仕上材の詳細がわかるもの。後述のアングル決定時までに準備でも可。
【希望アングル情報】
見せたいと思う場所やそれを見る方向の指示。制作会社へ任せてもその計画のよいところを見出し、最適な画角を提案してくれるだろう。
【希望納期】
おおまかにでも希望のスケジュールを伝えておくとよい。修正や変更の対応時間も考慮して、ある程度余裕をもった計画が必要。
【パースイメージ】
自社の建築・デザイン例、他社の制作例や建築写真など、こういうふうにしてほしいというイメージがあると制作者は対応がしやすい。


特に初めての制作会社に依頼する場合は、パースイメージを用意することをお勧めする。

資料を送信した後の制作会社の動き

資料の送信後、制作会社は提出された内容を基に作業を開始する。まず最初に、図面やその他資料を読み込みながら3DCGソフトを利用し、3次元でかたちを制作していく。これはモデリングと呼ばれる工程で、図面に表れてこない部分など汲み取り・補完しながら制作が進行されていく。パース制作会社には設計経験者が在籍・対応していることが多いので、一般的な納まり表現には問題はないことが多い。しかし特殊なディテールや造作表現が必要な場合は、詳細図等によって指定するのが望ましい。

モデリングについて、合わせて確認しておきたい場合は、以下の記事が参考になる。
>>【3DCGを学ぼう】 モデリングとはなにか【建築パース制作】

また、提供した仕様書を参照しながら、モデリングで作成した3D形状に木やタイルといったマテリアルの素材を貼り付けてリアリティを追加していく。制作会社によっては、後述のアングル決定を行った後にこの質感設定を行うところも多い。以上の対応を行った後に、最終的なアングル(画角)を決定するために数点の候補画像が送られてくる。

4. アングルを確認して決定する

制作会社によって、モデリング・ライティング・マテリアル設定の対応が完了すると、最終的な仕上がりのアングル(画角)を決めるために何点かの候補画像が送られてくる。その際、行わなければならないことを見ていこう。

4-1. なぜアングルを決めるのか

この時点でなぜアングルを決めなければいけないのかと疑問に思うかもしれない。その理由は
・対応の範囲を限定し
・その範囲の画像を加工・合成

するためである。簡単に言えば、対応する範囲を決めて無駄な作業をなくすためである。

そして制作会社は、アングルを決定した後、合成処理を中心とした作業に移っていく。

この流れは写真を撮影し、エフェクト処理をして、よりよく見せることに似ている。写真の撮影は範囲を限定することで、エフェクト処理は加工・合成にあたる。まずは写真撮影を行わなければ加工できないのと同様、以後の対応のためにこの時点でアングル決定が必要となる。

4-2. 最適なアングルの選び方

建物や空間を見せる場合、一番よく用いられるのは正対した構図(真正面)からみたものである。弊社でも7~8割はこの構図を採用する。意匠にもよるが、正面アングルは建物が最も美しさを表現できるアングルと考える。

一方で、見せたいデザイン要素が複数ある場合や、その繋がりを表現したい際は角度をつけたアングルを採用する。

建築パースは単なる美しさを表現するのが目的ではなく、イメージする完成図を伝える役割もある。それぞれのアングルによる特徴を理解し、用途によって選択するのがよいだろう。

アングル選定については、こちらの記事が参考になる。
>>【3DCG】建築パース制作時のアングル決定方法【カメラ設定解説】

4-3. 気を付けたいこと(アングルは簡単には変更できない)

ここで注意しておかなければならないのが、このタイミングで決定したアングルは簡単には変更できないこということである

この後の作業は前述の、加工・合成などがあり、アングルが変更になるとその対応をやり直さなければならなくなる。一度決定したアングルを変更してしまうと、追加で費用が発生する場合もあるので注意が必要である。

■ アングル決定の連絡をした後の制作会社の動き

アングルを決定すると制作会社は仕上げの作業に入る。見える範囲内で更なるディテール制作や小物などを配置。照明等の微調整を行いながら完成へと近づけていく。
3DCGでの作業が完了すると、対応した内容を一枚の画像にまとめるため、レンダリングと呼ばれる演算処理を行う。

レンダリングについて、合わせて確認しておきたい場合は、以下の記事が参考になる。
>>【3DCGを学ぼう】レンダリングとはなにか【建築パース制作】

このレンダリングは時間を要する作業であり、大きな画像サイズが必要な場合は数時間かかることもある。数年前に比べたらパソコンの性能向上によってだいぶ時間が短縮されたが、いまだ制作時間に大きく影響する工程である。
無事に画像が作成した後は画像編集ソフトを利用して、明るさや色の調整、樹木や人などの合成処理を行う。この作業をポストプロダクションと呼ぶ。

5. 仕上がりチェックする

制作会社は、指定したアングルに対し残りの対応を行い、完了した段階で確認用の画像を送る。到着したら、計画の内容が正確に反映されているか、どこかおかしなところがないかなど細かくチェックを行い、必要な場合は修正の依頼を行う。確認や修正の指示について、ちょっとしたコツをまとめる。

5-1. 色や明るさについて

色や明るさは画像で利用の場合はモニター、出力する場合はプリンターの環境によって大きく異なる。制作者は色の調整がされているモニターで作業しているので、確認側の環境によって見え方が変わってくることが多い。

そこでおすすめは、細かい調整や修正が必要な場合、Apple製品のiPhoneやiPadにて確認し、そこでの見た目を基準に指示を行うとよい。比較的ユーザー数の多い共通したデバイスであるため、見え方の相違が少ないのがポイントである。

5-2. 修正をお願いする場合は指示の意図まで伝える

修正依頼の際には、どうしてその対応をしてほしいのか「指示の意図」まで伝えるよう行うとよい。

「ここに植栽を増やす」という指示と「緑に囲まれた雰囲気にしたいのでここに植栽を増やす」とでは制作者の理解と対応が変わってくる。

最初の指示の場合制作者は、「とにかくここに緑を入れておくのが希望なのだろうな・・・」と考え、早く終わらせるためにとりあえず従い対応を行う。一方、意図を付け加えて指示することで、もし植栽を追加しても緑に囲まれた雰囲気があまりでないと感じたらそのイメージを実現するため他の対応を提案してくれたり、相談をしながら進めてくれる場合がある。

5-3. スケジュールは修正期間も考慮に入れて

画像全体を明るく・・・などの簡単な修正を除きほとんどの場合、時間を要するレンダリングを行わないと対応できないものばかりである。そのため修正指示から対応完了までの期間も、全体スケジュールを考える際に検討しておかなければならない。

初校の状態によって作業ボリュームと時間が変わってくるので、事前にどのくらいの期間を想定しておけばよいのか読みにくいところだ。初めから余裕のあるスケジュールが取れない場合は、初校・校了の時間も含めた上での納期を伝えておくのが重要である。

5-4. このタイミングで大幅な変更はほぼできない(追加費用が発生する)

納品直前の大幅な変更は避けるべきだ。この段階での変更は、コストとスケジュールに大きな影響を与えるだけでなく、品質にも影響を及ぼす可能性がある。変更が必要な場合は、早い段階でその調整を始めるべきである。


>>修正・変更について

■ 資料を送信した後の制作会社の動き~修正対応~納品

チェックバックをもとに、修正の対応が行われる。希望はできるだけ伝えよう。しかしできること・できないことや、完成度を結果的に下げてしまう内容もあるので、制作者の意見を尊重することも大事である。また、変更する際は内容の規模や種類によって、追加の費用が必要となる場合があるので、制作会社に相談しよう。

6. 校了~納品データとその後

修正対応~チェックを繰り返し、直すところがなくなったら納品となる。基本的にはこれ以降の修正は不可になるのか、費用が発生してしまう場合があるので注意が必要だ。

6-1. データ種類

現在はパース画像のデータを、転送サービスやクラウドを利用した納品が主流である。
データの形式は、高画質でありながら容量が小さい「jpg」または「png」形式が多く利用されている。

画質の劣化や圧縮が気になる場合は「TIFF」等の形式での納品を申し入れよう。その他、出力や額装などが必要な場合は対応の可否が制作会社によって異なるので確認が必要である。

6-2. 納品後に修正・変更が必要になったら

納品後に変更が発生する場合があるだろう。
最終のデータを提供されて間もない場合や軽微な変更に関しては、追加費用なしに対応してくれるところが多い。

また、ある程度のボリュームで変更があったり、納品から時間が経ってしまっている場合は、内容に応じて費用が発生する場合や対応が不可なこともある。

7. まとめ

今回は一般的な建築CG制作会社への依頼を想定し、制作フローを紹介した。外装・内装・建物用途問わず、概ね解説したかたちで制作が進行される。依頼した後「どんな内容の連絡が来るのか」「なにを決めなければならないのか」を理解していると、制作への不安も少なからず解消されることだろう。

改めて制作依頼者として行わなければならない主な内容をまとめると

1 資料を送信する:制作に必要な資料や情報をCG制作会社に提供
2 アングルを決定する:作成するCGの視点やアングルを決定
3 確認画像をチェックする:進行中のCG画像を確認し、必要に応じてフィードバックを提供
4 校了連絡をする:最終的なCGが完成した後、作品に問題がなければ校了の連絡

の4つがメインとなる。
これらのステップを踏むことで、建築パース制作はより効率的に進行し、最終的には依頼者の満足度の高い成果物を生み出すことが可能になるだろう。

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