ホテルの空間価値を伝える建築パースとは?|CGパースで“世界観”を表現する視点

図面や仕様書では伝えきれないもの―― それは、空間に宿る「雰囲気」や「体験のイメージ」である。
とくにホテルのような“過ごし方”そのものが価値になる空間では、設計意図や世界観を正確に伝えるビジュアル表現が不可欠だ。建築パース・CGパースは、そうした空間の魅力を一目で可視化し、 クライアントや関係者との合意形成をスムーズに行う強力なツールである。

本記事では、ホテル空間における建築パースの活用法について、実際のCGカットをもとに「伝わる表現とは何か」をひも解いていく。「伝えたい空間」を「伝わる絵」に変えるヒントを、ぜひつかんでいただきたい。

目次

1. 設計意図を一目で伝える、建築パースの役割とは

図面だけでは伝わらない“空間の価値”
ホテルのような施設では、空間そのものがブランド体験や顧客満足と直結する。
しかし、設計者が意図する「雰囲気」や「空気感」を図面や仕様書だけで正確に共有するのは難しい。

図面では伝わりにくい要素

◆ 光や陰影が生む空間の印象
◆ 素材の質感や色味のリアルなニュアンス
◆ 空間全体の広がりや奥行き
◆ 利用者が体験する感覚的な価値

CGパースは、こうした感覚的な価値を“視覚言語”として具体化する。

CGパースが補う表現の力

🔷 色彩・光雰囲気や時間帯の印象を表現
🔷 素材感・テクスチャ高級感や温もりをリアルに再現
🔷 立体構図奥行きや広がりを明確に伝える

また、早期の段階で「完成後の空間イメージ」を具体的に提示できることは、単なるイメージ共有にとどまらず、合意形成・意思決定を加速させる効果も持つ。プレゼンテーションの場面でも、言葉では伝えきれない印象や体験価値を視覚的に補強することで、説得力を格段に高めることが可能だ。

設計を「伝えること」まで含めて責任を持つ時代において、建築パースは図面の代替ではなく、「空間をどう伝えるか」をデザインするための表現手段となっている。

2. 実例で見る「伝わるCGパース」

CGパースは空間を“正しく描写する”ためだけのものではない。
本質的には、「誰に」「どのように」伝えたいかという設計意図や世界観を、“印象として残す”ことにこそ役割がある。 ここでは、実際に制作されたホテルの建築パースをもとに、表現の工夫とその意図を読み解いていく。

2-1. 都市の眺望と柔らかい光で描く、くつろぎの客室パース

弊社CGパース制作例より

客室パース(昼)|快適な滞在イメージを描く

🔷 自然光と広がりのあるアングル
→ 大きな窓からの光と眺望が、室内に開放感と奥行きを与える
🔷 素材と家具配置
→ 窓際のロングソファ、ナチュラルな素材で落ち着いた印象を演出
🔷 ライティング
→ 柔らかい光を使い、明るすぎない設定で「静かな昼のひととき」を表現
🔷 全体の印象
→ 過度な演出を避けつつ、清潔感と居心地の良さをしっかり伝える

2-2. 都市の夜景に包まれる、ラグジュアリーな滞在イメージ


弊社CGパース制作例より

客室パース(夜)|上質で静かな滞在を描く

🔷 間接照明と夜景の調和
→ 壁や天井に仕込まれた間接照明が柔らかな陰影を生み、都市の夜景と重なり合うことで落ち着いた上質感を演出する
🔷 構図の流れ
→ ベッド・窓辺・夜景が一連のシーンとしてつながり、自然に「ここで過ごす時間」を想起させる
🔷 空間の印象
→ 室内では静かで穏やかな時間が流れ、外の喧騒との対比で非日常の滞在価値を際立たせている

2-3. 木の質感とやわらかな光で描く、静寂と癒しのスパ空間

スパパース|癒しと温もりを感じる空間

🔷 素材感と質感の表現
→ 石材や木材のテクスチャをリアルに再現し、上質で温かみのある雰囲気を演出する
🔷 ライティングの演出
→ 柔らかな光が湯面に反射し、空間全体にリラックス感を与える
🔷 湯気や空気感の表現
→ 湯気や微細な光の粒子を組み合わせることで、スパ特有の“温度感”や包まれるような癒しを視覚化
🔷 空間の印象
→ 五感で感じるような静けさと心地よさが伝わり、非日常のリラクゼーション体験を想起させる

2-4. 記憶に残る“第一印象”を描く、夕景の外観パース

外観パース(夕景)|記憶に残る第一印象を描く

🔷 時間帯の演出
→ 夕景の柔らかな光が建物の輪郭を際立たせ、印象的な佇まいを生み出す
🔷 照明と外観の調和
→ 建物内外の照明が温かみをプラスし、訪れる人に安心感と高級感を伝える
🔷 構図のバランス
→ 建物全体と周辺環境の関係性を整え、ホテルの存在感を強調する
🔷 全体の印象
→ 夕景ならではの幻想的なトーンで、見る人の記憶に残る第一印象を表現

2-5. ホテルの世界観を体現する“顔”としてのロビー

ロビーパース|ブランドの世界観を象徴する空間

🔷 迎え入れる雰囲気
→ 広がりのある構図と開放的な光の取り入れ方で、訪れる人を迎える印象を強調する
🔷 素材とデザインの統一感
→ 床やカウンター、装飾などを高級感ある素材で統一し、ブランドの世界観を視覚的に表現
🔷 ライティング
→ 間接照明と自然光を組み合わせ、空間全体に柔らかい明るさと立体感を与える
🔷 全体の印象
→ ホテルの「顔」として、ホスピタリティやブランド価値を端的に伝える

3. CGパースでホテルの“世界観”を伝える4つの視点

「設計の意図はあるのに、パースではうまく伝わらない」 そんな経験はないだろうか。
CGパースは、図面の補足ではなく、“伝えるための表現”としての完成度が求められる。ただ立体化するだけでは、空間の魅力や世界観は伝わらない。光の当て方、カメラの位置、人物や小物の入れ方──その「見せ方」ひとつで、伝わる印象は大きく変わってくる。
ここでは、ホテルパースの世界観を効果的に届けるために、制作時に意識するべき4つの視点を紹介する。

3-1. 朝・夕・夜、それぞれの印象と演出目的

ホテルのCGパースでは、「どの時間帯で描くか」が空間の印象を大きく決定づける。
朝の光は清潔感と開放感を、夕方の光は温もりと落ち着きを、夜は静けさや高級感を演出できる。
同じ空間構成であっても、時間帯が変われば伝わるメッセージはまったく異なる。

🔍 時間帯ごとの印象と特徴
:爽やかで清潔感のある空間。自然光が差し込み、開放感や一日の始まりを感じさせる
:オレンジやゴールドの光が温もりを演出。到着やくつろぎの時間を象徴する
:間接照明や都市の夜景と組み合わせることで、高級感や静かな非日常を強調

📝 具体的な演出例
朝の客室 → 「爽やかな目覚め」を連想させる
夕景のロビー → 「心がほどける到着の瞬間」を印象づける
夜の外観 → 「幻想的な非日常」を演出

💡ポイント
時間帯の設定は、「誰に・どんな印象を残したいか」というプレゼンの意図と直結している。パースの完成度を高めるためには、この時間帯選択も意識的に計画する必要がある。

3-2.  素材・質感のリアルな表現

ホテル空間の魅力は、素材が持つ質感や触感のイメージによって大きく左右される。
木の温もり、大理石の冷たさ、ファブリックの柔らかさ──こうした質感をパースで正確に表現することで、空間の上質感や清潔感を視覚的に伝えることができる。

🔍 質感を伝えるためのポイント
テクスチャのリアリティ:木目や石材、ファブリックなどのディテールを忠実に再現する
反射や光沢の調整:マテリアルの特性に合わせた光の反射や艶感を設定する
カラーコントロール:トーンや色味を微調整し、全体の空間イメージに調和させる

📝 具体的な演出例
客室:ファブリックの質感や木材のマットな質感を生かし、落ち着きと快適さを表現
スパ:石材の冷たさや湿度感を丁寧に描き、空間の温度や雰囲気を想起させる

💡ポイント
素材感を正しく描くことは、「実際にその場にいる感覚」を疑似体験させるための鍵となる。

3-3. 空間の導線・主役の明確化・没入感のつくり方

ースは「どこから空間を見るか」で印象が大きく変わる。
構図やアングルは、空間の魅力や設計意図を最も効果的に伝えるための“視点設計”といえる。

🔍 構図・アングルを決めるポイント
導線を見せる:人が空間に入っていく視線の流れを意識した構図を選ぶ
主役を明確化:空間内で特に見せたい要素(家具・照明・外の景観など)を中心に置く
奥行きと広がり:手前・中間・奥行きのバランスを調整し、立体感と没入感を生む

📝 具体的な演出例
客室:ベッドと窓外の眺望が一体で見えるアングルを採用し、「ここで過ごす時間」を想像させる
ロビー:広がりのある構図で、ホテル全体の“迎え入れる雰囲気”を強調

💡ポイント
構図は単なるカメラの位置決めではなく、「空間のストーリーを語るための視点設計」である。

3-4. 人物やライフシーンの挿入

パースに人物や生活シーンを加えることで、空間の利用イメージや体験価値を直感的に伝えることができる。
無人の空間だけでは得られない、リアルなスケール感や雰囲気が生まれる。

🔍 人物・ライフシーンを挿入するポイント
スケール感の付与:人を配置することで、空間の広さや高さを直感的に理解させる
利用シーンの想起:チェックインやラウンジでくつろぐ様子など、具体的なシーンを描く
動きと視線の演出:人物の立ち位置や姿勢、視線を工夫し、自然なストーリー性を加える

📝 具体的な演出例
ロビー:ゲストが談笑する様子を入れることで、ホテルの温かみとホスピタリティを強調
スパ:リラックスしている人物のシルエットを加え、癒しと非日常感を可視化

💡ポイント
人物は空間の“主役”ではなく、「その空間で得られる体験を補足する存在」として配置することが大切である。

4. なぜ“意図の共有”がクオリティを決めるのか

パースの完成度は、制作技術の高さだけでは決まらない。
重要なのは、「どんな印象を伝えたいのか」という依頼者側の意図が、制作者にどれだけ明確に共有されているかという点だ。
どんなに精緻に作り込まれたCGでも、伝えるべき世界観とズレていれば、そのパースは“説得力を持たない”。意図の共有は、仕上がりの精度と、制作プロセスの効率を左右する大きなカギとなる。

✦ 言葉だけでは伝わらない、世界観の違い

「ラグジュアリー」「落ち着き」「非日常」といった言葉は便利だが、人によって捉え方はさまざま。
例えば──

白を基調にした明るく開放的なラグジュアリー

ダークトーンの素材で重厚感を演出するラグジュアリー

同じキーワードでも、光の当て方、素材の選び方、構図の印象がまったく異なる。そのため、言葉だけに頼った指示では、依頼者と制作側とのイメージにズレが生まれやすい。

✦ 具体的な共有が「伝わるパース」を生む

依頼時に意図を正しく伝えるには、以下のような情報の整理と共有が有効となる:

🔷 空間のキーワードを明確にする
「温もりのある非日常」「都市的な静けさ」「自然との一体感」など、抽象的でも方向性がはっきりする言葉を選ぶ。
🔷 ターゲットと利用シーンを想定する
例:ファミリー層の週末利用、出張ビジネス客の平日滞在など。誰に、どんな体験を届けたいかを明確に。
🔷 ブランドの世界観を明文化する
色・素材・ロゴ・語感など、ブランドトーンが感じられる言葉や資料を集めて共有。
🔷 参考イメージをセットで伝える
「近いイメージ」と「避けたいイメージ」の両方を提示すると、表現の方向性がより明確になる。

CGパースのクオリティは、依頼者の「ビジョンを言語化・視覚化する力」によって大きく変わる。
制作は単なる発注ではなく、“共創”のプロセスである。意図が正しく共有されたパースは、言葉以上に空間の魅力を雄弁に語る、最高のプレゼン資料となる。

5. まとめ

ホテルの建築パースに求められるのは、単に空間の機能や形状を伝えることではない。
設計者が描こうとする“世界観”を視覚的に表現し、見る人に印象と共感を残す──それが本来の目的である。

本記事では、ホテルパースにおける見せ方の工夫や、世界観を伝えるための視点、実例表現を紹介してきた。
空間の魅力を正しく届けるには、演出の視点と、意図を明確に共有する準備が欠かせない。

CGパースは、単なるビジュアル資料ではなく、「空間の価値を伝える提案の武器」である。
だからこそ、どう見せたいのか、どんな印象を残したいのか──その意図を丁寧に整理し、制作パートナーと共有することが、成功の鍵となる。

空間の価値を真に伝えるために、意図を明確に持ち、見る人の記憶に残る一枚を目指したい。ホテルという特別な舞台には、それにふさわしいパース表現が必要だ。

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